量子コンピュータ

量子力学の原理を使い、従来とは異なる方法で計算する次世代コンピュータ

コンピュータ先端技術
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量子コンピュータとは

量子コンピュータは、量子力学の原理を利用して計算を行う、従来とは根本的に異なる仕組みのコンピュータだ。現在のコンピュータ (古典コンピュータ) が 0 か 1 のビットで情報を扱うのに対し、量子コンピュータは「量子ビット (キュービット)」を使う。量子ビットは 0 と 1 の重ね合わせ状態を取れるが、読み出す (測定する) と必ず 0 か 1 のどちらか一方に確定し、どちらになるかは確率的に決まる。この性質をうまく使える問題では、古典コンピュータより少ない手数で答えに到達できる。

速さの源泉は「並列に全解を試すこと」ではない

「重ね合わせであらゆる答えを同時に試すから速い」という説明が広まっているが、これは正確ではない。測定で取り出せる結果は 1 つだけなので、候補を大量に重ね合わせただけでは当てずっぽうに 1 つ引くのと変わらない。実際の鍵は、複数の量子ビットを量子もつれで結び付け、計算の途中で生じる波としての干渉を使って、誤った答えに対応する成分を打ち消し、正しい答えの成分だけを強めることだ。この干渉のさせ方を設計できた問題でしか高速化は起きない。量子コンピュータの速さがアルゴリズム次第と言われるのはこのためだ。

古典コンピュータとの違い

観点古典コンピュータ量子コンピュータ
情報単位ビット (0 または 1)量子ビット (重ね合わせ)
得意分野汎用的な計算全般高速化アルゴリズムが知られた問題
状態確定的確率的

量子コンピュータは「何でも速い万能機」ではない。整理されていないデータからの探索 (Grover のアルゴリズム) で得られるのは、試行回数が要素数の平方根のオーダーに減る程度の改善で、指数的な短縮ではない。指数的な差が理論的に示されているのは、素因数分解 (Shor のアルゴリズム) や量子系そのもののシミュレーションといった限られた領域だ。組み合わせ最適化での優位も期待されているが、古典計算を確実に上回ると証明された段階には至っていない。

期待される応用

量子コンピュータが力を発揮しうる分野として、新素材や医薬品の分子シミュレーション、複雑な組み合わせ最適化、暗号解読などが挙げられる。暗号については影響の範囲が比較的はっきりしている。RSA や楕円曲線暗号のように素因数分解・離散対数の難しさを安全性の根拠にしている公開鍵暗号は、十分な規模の量子コンピュータが実現すれば Shor のアルゴリズムで破られる。一方 AES のような共通鍵暗号への影響は限定的で、鍵長を伸ばす対処が効く。この備えとして米国 NIST は 2024 年 8 月 13 日に耐量子暗号の最初の標準 (FIPS 203・204・205) を確定させており、耐量子暗号は研究段階から移行の段階へ進んでいる。

現状と冷静な見方

量子コンピュータは大きな可能性を持つ一方、まだ発展途上の技術だ。量子ビットは周囲の熱や電磁的な乱れでごく短時間に状態が崩れるため、計算の途中で誤りが入り込む。これを補うのが量子誤り訂正で、多数の物理量子ビットを束ねて 1 個の信頼できる「論理量子ビット」を作る考え方が主流だ。したがってハードウェアの量子ビット数がそのまま計算能力を表すわけではなく、誤り率をどこまで下げて論理量子ビットを何個確保できるかが実用化の分かれ目になる。「すぐにあらゆる計算が高速化する」という誇張された期待には注意が必要で、当面は特定用途での実用化が現実的とされる。古典コンピュータを置き換えるのではなく、補完する存在として理解するのが適切だ。

実務の視点では、今すぐ手を動かすべきなのは量子計算そのものより暗号の移行計画だ。長期間秘匿したいデータは、いま暗号文のまま収集され、将来の量子コンピュータで復号される恐れがある。自社システムのどこで RSA や楕円曲線暗号を使っているかを棚卸ししておくことが、当面もっとも現実的な備えになる。

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