「AI リスク」の解剖
エーアイリスクノカイボウ
決定と責任を社会学的に考える
なぜ注目されているか
書籍紹介
AI につきまとう漠然とした不安の正体とは。AI を取り巻く批判的な言説から「AI リスク」が何を指すかを読み解き、建設的に議論を進めるための思考の機軸と道筋を示す。
技書の森解説
『「AI リスク」の解剖』 (佐久間 弘明 著、中央経済社、2026 年 3 月刊) は、AI をめぐって語られるリスクが何を指しているのかを、政策決定者と社会運動の言説を素材に社会学の方法で分析した本です。版元の書籍ページの見出しには「決定と責任を社会学的に考える」が添えられています。版元の紹介文には「AI につきまとう漠然とした不安の正体とは」という問いが掲げられ、AI を取り巻く批判的な言説から AI リスクが何を指すかを読み解き、建設的に議論を進めるための思考の機軸と道筋を示すと案内されています。
政策決定者と社会運動、2 つの AI リスク言説を比べる構成
本文は全 6 章と終章です。第 1 章は「生成 AI の流行」から始まり、政策決定者の言説では日米欧の異なるアプローチを、社会運動の言説では在野のプレイヤー同士の協働と反発を取り上げます。第 2 章「言説のフレーミング分析というアプローチ」で分析の方法を示したあと、第 3 章「政策決定者の AI リスク言説」と第 4 章「社会運動の AI リスク言説」が、どちらも主題、損害、利益、対策のフレーミングを同じ順序で分析します。第 5 章「フレーミング対立と『責任』のありか」で両者の対立を整理し、第 6 章では採用 AI と音声生成 AI の 2 つのケーススタディを通じて、著者が「フレーミング予測」と名付けた手法を提案します。終章は「本書でわかってきたこと」です。
第 2 章「言説のフレーミング分析というアプローチ」
第 2 章の最初の節「『リスク』は必ず語られることで存在する」が示すとおり、本書はリスクを客観的に測れる量としてではなく、誰かが語ることで形を持つものとして扱います。フレーミング分析は、ある問題について何を主題に選び、どの損害や利益を強調し、どんな対策を示すかという語り方の枠組みを取り出す方法で、報道研究や政策研究で使われてきました。生成 AI の流行は、第 1 章の最初の節の題材です。
ルーマン理論で整理する決定と責任
第 5 章が用いるのは、社会学者ニクラス・ルーマンのリスクと危険の区別です。ルーマンは、将来の損害の可能性が自分の決定の帰結とみなされる場合をリスク、自分の外から降りかかるとみなされる場合を危険と呼び分けました。第 6 章のケーススタディの 1 つは、機械学習 で応募者を選別する採用 AI です。本書は第 5 章でこの図式から AI リスク言説を読み、利益のフレーミングの重要性へと議論を進めます。版元の著者紹介によると、著者は経済産業省で AI / データに関わる制度整備と運用に従事したのち、民間を経て一般社団法人 AI ガバナンス協会の業務執行理事などを務め、企業の AI ガバナンス構築支援や標準策定、政策提言に携わってきました。社会学の視点からの言説研究にも取り組んでおり、修士 (社会情報学) を持ちます。一方で、目次には AI モデルの実装や性能評価、個別の法令の条文解説を扱う章はありません。生成 AI の流行から始まり、政策決定者と社会運動の言説の比較、ルーマンの理論による責任の整理、採用 AI と音声生成 AI を例にしたフレーミング予測の提案までを、本書は全 6 章と終章に収めています。
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