Template Method パターン
アルゴリズムの骨格を親クラスで定義し、具体的なステップをサブクラスに委ねるデザインパターン
Template Method パターンとは
Template Method パターンは、アルゴリズムの全体的な流れ (テンプレート) を親クラスで定義し、各ステップの具体的な実装をサブクラスに委ねるデザインパターンである。Erich Gamma・Richard Helm・Ralph Johnson・John Vlissides の 4 人が 1994 年に Addison-Wesley から刊行した『Design Patterns: Elements of Reusable Object-Oriented Software』(邦訳『オブジェクト指向における再利用のためのデザインパターン』) が挙げた 23 パターンのうち、振る舞いに関するパターンに分類される。
通常とは呼び出しの向きが逆になるのがこのパターンの本質である。サブクラスは親クラスの手順を呼び出すのではなく、親クラスのテンプレートメソッドから呼ばれる側に回る。この制御の反転 (Inversion of Control) は「ハリウッドの原則 (Don't call us, we'll call you)」とも呼ばれ、フレームワークが拡張可能な骨格として振る舞える根拠になっている。
基本的な実装
データの取得・変換・保存・通知という 4 段の流れは、出力先が変わっても順序は共通で各段の中身だけが違う。共通の流れを親クラスのテンプレートメソッドに固定し、変わる部分を抽象メソッドとして切り出す。通知のように「既定の動作で足りることが多いが差し替えたい場合もある」処理は、既定実装を持つフックメソッドにする。
// db (SQL クライアント)・fs (node:fs/promises)・ddb・s3・sns・topicArn は初期化済みとする
abstract class DataExporter {
// テンプレートメソッド: アルゴリズムの骨格
async export(): Promise<void> {
const data = await this.fetchData();
const transformed = this.transform(data);
await this.save(transformed);
await this.notify();
}
// 抽象メソッド: サブクラスが実装
protected abstract fetchData(): Promise<any[]>;
protected abstract transform(data: any[]): string;
protected abstract save(content: string): Promise<void>;
// フックメソッド: デフォルト実装あり、オーバーライド可能
protected async notify(): Promise<void> {
console.log('Export completed');
}
}
class CsvExporter extends DataExporter {
protected async fetchData() { return db.query('SELECT * FROM orders'); }
protected transform(data: any[]) { return data.map(r => Object.values(r).join(',')).join('\n'); }
protected async save(content: string) { await fs.writeFile('export.csv', content); }
}
class S3JsonExporter extends DataExporter {
protected async fetchData() { const res = await ddb.scan({ TableName: 'Orders' }); return res.Items ?? []; }
protected transform(data: any[]) { return JSON.stringify(data); }
protected async save(content: string) { await s3.putObject({ Bucket: 'exports', Key: 'orders.json', Body: content }); }
protected async notify() { await sns.publish({ TopicArn: topicArn, Message: 'S3 export done' }); }
}
Strategy パターンとの違い
どちらも変わる部分を外に出すパターンだが、差し替えの手段とタイミングが違う。
| 観点 | Template Method | Strategy |
|---|---|---|
| 拡張の手段 | 継承 (サブクラスがステップを実装) | コンポジション (アルゴリズムのオブジェクトを注入) |
| 差し替えの粒度 | アルゴリズムの一部のステップ | アルゴリズム全体 |
| 差し替えのタイミング | サブクラスを選んだ時点で固定 | 実行中に入れ替えられる |
| 親子の結合 | サブクラスが親の protected メソッドに依存 | インターフェース経由で疎結合 |
Template Method は「アルゴリズムの骨格は同じで、一部のステップだけが異なる」場合に使う。骨格そのものが違うなら Strategy を選ぶ。
継承を使う代償として、Template Method には制約が 3 つある。第 1 に、多重継承のない言語では親クラスを 1 つしか選べない。第 2 に、親クラスの手順を変えると全サブクラスに影響が及ぶ。第 3 に、変化の軸が 2 つ以上あるとサブクラスが軸の組み合わせの数だけ増える。出力先とフォーマットが独立に増えていくような場合は、サブクラスを掛け算で作るより、Strategy か次に示す関数の合成で軸ごとに分けたほうが破綻しにくい。
関数の合成で同じ構造を作る
TypeScript や JavaScript では、クラス階層を作らずに関数の合成で同じ構造を組むこともできる。固定したい手順を関数側に持ち、変わる部分を引数で受け取れば、継承なしでも「骨格は固定・ステップは差し替え」が成り立つ。省略できるフックはオプショナルなプロパティで表現する。
type ExportConfig<T> = {
fetchData: () => Promise<T[]>;
transform: (data: T[]) => string;
save: (content: string) => Promise<void>;
notify?: () => Promise<void>;
};
async function exportData<T>(config: ExportConfig<T>): Promise<void> {
const data = await config.fetchData();
const content = config.transform(data);
await config.save(content);
await config.notify?.();
}
// 使用
await exportData({
fetchData: () => db.query('SELECT * FROM orders'),
transform: (data) => JSON.stringify(data),
save: async (content) => { await s3.putObject({ Bucket: 'exports', Key: 'orders.json', Body: content }); },
});
save の型は Promise<void> なので、SDK の戻り値をそのまま返すと型が合わない (putObject は ETag などを含むオブジェクトを返す)。await で受けて値を捨てる形にする。
実務での活用
- Node.js の
stream.Writable: 公式ドキュメントは_write()を「アプリケーションコードから直接呼び出してはならない。子クラスが実装し、内部の Writable のメソッドだけが呼び出す」と規定している (2026 年 8 月時点)。バッファリングや背圧を含む書き込みの流れは基底クラスが持ち、実装側は書き出し先だけを埋める。 - テストフレームワークの
beforeEach/afterEach: 前処理・本体・後処理を回す順序はランナー側が固定し、各フックの中身をテストの作者が書く。 - クラスコンポーネント時代の React のライフサイクルメソッド:
renderやcomponentDidMountは呼ばれる側で、呼ぶタイミングは React が決める。ただし 2026 年 8 月時点の React 公式ドキュメントはComponentをレガシー API に分類しており、新しく書くコードでは関数コンポーネントと Hooks を使う。
Express や Koa のミドルウェアチェーンもこのパターンの例に挙げられることがあるが、実際には各ミドルウェアが next() で処理を次へ渡す構造であり、Chain of Responsibility に近い。継承で手順の一部を埋める形ではないため、Template Method とは別の型として扱う。
実務での活用方法は関連書籍にも詳しい。
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