プルリクエストに書籍の引用を添える習慣
この記事は約 4 分で読めます。
「なぜこう設計したのか」に答える
プルリクエストのレビューで「なぜこの設計にしたのですか?」と聞かれたとき、明確に答えられるでしょうか。「なんとなく」「前にもこう書いたから」では、レビュアーを納得させられません。
設計判断の根拠として書籍の引用を添える習慣をつけると、この問題が解消します。「Martin Fowler のリファクタリングで紹介されている Replace Type Code with Subclasses パターンを適用しました (第 12 章)」と書くだけで、設計の意図が明確になり、レビュアーも判断しやすくなります。
引用の書き方
プルリクエストの Description に、以下のフォーマットで引用を添えます。
## 設計判断の根拠
この PR では Repository パターンを導入してデータアクセス層を分離しています。
> 参考: 『Clean Architecture』Robert C. Martin, 第22章
> 「ビジネスルールはデータアクセスの詳細を知るべきではない」
テストでデータベースをモックに差し替えられるようになり、
テスト実行時間が 12 秒 → 2 秒に短縮されました。
ポイントは 3 つです。書籍名と章番号を明記すること。引用は 1〜2 文に絞ること。そして、引用だけでなく実際の効果も併記すること。
この習慣がチームにもたらす効果
設計語彙が揃う
チームメンバーが同じ本の同じ概念を参照するようになると、設計に関する議論の精度が上がります。「あの PR で引用されていた Repository パターン、今回のケースにも使えそうですね」という会話が自然に生まれます。
暗黙知が形式知になる
ベテランエンジニアの頭の中にある設計判断の基準は、普段は言語化されません。引用を添える習慣があると、「なぜこう判断したのか」が PR の履歴として残ります。新しいメンバーが過去の PR を読むだけで、チームの設計思想を学べるようになります。
読書のモチベーションが上がる
他のメンバーの PR に書籍の引用が添えられていると、「自分もその本を読んでみよう」という動機が生まれます。強制ではなく、実務の文脈で本が紹介されるため、読書への抵抗感が低くなります。
引用に適した場面
すべての PR に引用を添える必要はありません。以下の場面で特に効果的です。
設計パターンを新たに導入したとき。なぜそのパターンを選んだのか、どの本のどの章を参考にしたのかを書きます。
リファクタリングを行ったとき。変更の動機と、適用したリファクタリングパターンの名前を書きます。
パフォーマンス改善を行ったとき。計測結果とともに、最適化の方針を参考にした書籍を記載します。
設計に関する本を 1 冊読んでいれば、引用のネタには困りません。
注意点
引用は権威付けのためではなく、コミュニケーションの道具として使います。「この本にこう書いてあるから正しい」という使い方は逆効果です。あくまで「この本のこの考え方を参考にして、こう判断しました」という文脈で使ってください。
また、引用する本はチーム内で広く知られているものが理想です。誰も読んでいないマイナーな本を引用しても、共通言語としては機能しません。チームの本棚に 1 冊置いておくと、引用された本をすぐに確認できて便利です。
関連記事
まとめ
プルリクエストに書籍の引用を添える。たったこれだけの習慣で、設計判断が明確になり、チームの設計語彙が揃い、読書の動機が生まれます。次の PR で、設計の根拠として本の章番号を 1 つ添えてみてください。
この記事は役に立ちましたか?
関連用語
関連記事
「それ、本に書いてあったよ」が最高の褒め言葉になる職場
チーム全員が技術書を読む文化がある職場では、議論の質とコードの質が変わります。読書文化を持つチームの特徴と、その文化を育てるための具体的な方法を紹介します。
コードレビューが上手い人は何を読んでいるのか
的確なコードレビューができる人は、共通して特定のジャンルの本を読んでいます。レビュー力を支える読書の傾向と、レビューに直結する知識の身につけ方を解説します。
Pull Request が通らない人に足りないのは、たいてい語彙力
コードレビューで指摘が多い人に共通する「設計の語彙力不足」という問題と、技術書で語彙力を効率的に増やす方法を解説します。
10 年読み継がれる技術書の条件 - 名著に共通する特徴
10 年以上読み継がれる技術書の名著に共通する 5 つの特徴と、名著を読むべきタイミングの見極め方を解説します。
あの有名 OSS のコードは、この本の影響を受けている
広く使われているオープンソースソフトウェアの設計には、特定の技術書の影響が色濃く反映されています。OSS のコードと技術書の関係を知ると、両方の理解が深まります。
読んだ本の数より「使った本の数」を数えよ
読書の成果は冊数では測れません。読んだ知識を実務で何回使ったかが、本当の読書の価値です。読書の成果指標を「冊数」から「使用回数」に切り替える方法を紹介します。