レトロスペクティブとは - スプリント振り返りの進め方とファシリテーション

レトロスペクティブはスプリントを締めくくる振り返りのイベント。KPT/Start-Stop-Continue 等のフォーマットと時間配分、リモートでの進め方を解説

アジャイルチーム

レトロスペクティブとは

レトロスペクティブ (Retrospective, レトロ) は、直前の一区切りの進め方をチームで振り返り、次の一区切りでの動き方を決め直す場である。アジャイルソフトウェア開発宣言の 12 番目の原則が、定期的に自分たちの効率の高め方を振り返り、それに合わせてやり方を調整すると述べており、レトロスペクティブはこの原則を定例の場に落としたものにあたる。

スクラムでは「スプリントレトロスペクティブ」という名前のイベントとして定義されている。位置はスプリントの後ではなくスプリントの最後で、この会をもってスプリントが終わる。所要時間の目安はスクラムガイド (2020 年版) で 1 か月のスプリントに対して最大 3 時間とされ、スプリントが短ければそれに応じて短くする。1 週間スプリントなら、下の表のように 45 分から 1 時間の枠に収める組み方ができる。なお日本語では「儀式」と呼ばれることがあるが、スクラムガイドでの呼称は「イベント」である。

基本フォーマット

枠と時間配分の一例を示す。KPT (Keep / Problem / Try) の 3 枠に意見を集め、最後に次スプリントの行動を決める組み方で、下の配分は 1 週間スプリントを想定した 45 分の枠である。先に時間を切る理由は、枠がないと Problem の吐き出しだけで会が終わり、何を変えるかが決まらないまま解散するためだ。

フェーズ内容時間
Keep続けたいこと10 分
Problem困ったこと・引っかかったこと10 分
Try次のスプリントで試すこと10 分
アクションアイテム担当者と期限まで決める15 分

進め方

上の表は意見を出す枠だけの配分である。実際の進行にはこれに、場を温めるチェックインと会自体を振り返るチェックアウトが加わるため、下の例は合計 50 分になる。書き出しと議論を別の手順に分けているのは、同時にやると先に発言した人の話題だけが議論に残るためだ。

1. チェックイン (5分)
   各メンバーの気分を共有 (15 の数字、絵文字)

2. データ収集 (10分)
   付箋に Good / Problem を書き出す

3. グルーピング (5分)
   似た意見をまとめる

4. 議論 (15分)
   投票で優先度を決め、上位を深掘り

5. アクションアイテム (10分)
   担当者と期限を決める

6. チェックアウト (5分)
   レトロ自体の振り返り

レトロスペクティブの手法

KPT (Keep / Problem / Try) は上で使った型のひとつである。ほかに Start-Stop-Continue (始める / やめる / 続ける)、4Ls (Liked / Learned / Lacked / Longed for)、Sailboat (風=推進力 / 錨=障害 / 岩=リスク)、Mad-Sad-Glad (感情ベース) がある。

型を替える狙いははっきりしている。KPT は事実の整理に強い代わりに、やりにくさや不満といった感情が出にくい。Mad-Sad-Glad や 4Ls は、まだ問題として言語化できていない引っかかりを拾いやすい。Sailboat は目的地を先に置くため、そもそも何を目指しているかがずれているチームで効く。同じ型を続けると出てくる意見も型どおりになるので、数スプリントごとに替えるのがひとつの手だ。

アンチパターン

犯人探しになると、次から人は問題を出さなくなる。個人の落ち度として扱われた話題は、翌週には「特にありません」に変わり、会の形だけが残る。防ぐには、出た問題を人ではなく仕組みの言い方に置き換える。「レビューが遅い」ではなく「レビュー依頼が個人宛なので、その人が休むと止まる」と書き直せば、直す対象が仕組みに移る。

アクションを決めずに終わると、次のスプリントで何も変わらないため、参加者は準備をしなくなる。決めたアクションを次回の冒頭で確認しないと、同じ経路で形骸化する。前回決めたことの結果を最初に見る数分が、この会の実効性をほぼ決める。

声の大きい人だけが話す状態は、先に付箋やチャットへ書き出す時間を取り、書かれたものを読み上げてから議論に入る順序にすると崩せる。時間が足りないときは、深掘りを 1 件に絞って残りを次回に回す。全件を薄く消化して何も決まらないより前に進む。

ポストモーテムとの違い

似た場としてポストモーテムがあるが、開く引き金と扱う範囲が違う。

観点レトロスペクティブポストモーテム
タイミングスプリントごと (定期)障害発生後 (不定期)
対象プロセス全般特定のインシデント
目的継続的改善再発防止
参加者チーム全員関係者

リモートでのレトロ

オンラインホワイトボード (Miro、FigJam など) に付箋を貼る形式が扱いやすい。道具の入れ替わりは速いので、製品名で選ぶより、付箋の同時編集・グルーピング・投票・タイマーが揃っているかで選ぶとよい。文字だけで進めるなら、チャットのスレッドでも成立する。

対面と違い、リモートでは沈黙が誰の番なのか分からない。書き出しの時間を明示的に区切り、書き終わったかを一人ずつ確認する進め方にすると止まりにくい。匿名で投稿できるようにするのは、名前が出ると評価に響くと考えて口をつぐむ状況への対処である。裏返せば、匿名でしか本題が出ないチームには、会の型より先に手を打つべきことがある。

レトロの進行例

実際のやり取りに落とすと、次のような流れになる。付箋の内容そのものより、投票で 1 件に絞ってから期限付きの行動に変えるまでの道筋が要点だ。

ファシリテーター: 「Good に付箋を貼ってください (3分)」
メンバー A: 「CI の高速化が効果的だった」
メンバー B: 「ペアプロで知識共有できた」

ファシリテーター: 「Problem に付箋を貼ってください (3分)」
メンバー C: 「レビューが溜まりがち」

 投票  「レビューの溜まり」を深掘り
 アクションアイテム: 「レビュー依頼から 4 時間以内に対応」

レトロスペクティブが機能しているかは、出た意見の数ではなく、前回決めたことが実際に変わったかで測ると分かりやすい。3 回続けて何も変わっていなければ、会の型ではなく、決めたことを実行できない事情 (権限・時間・優先順位) の側に原因がある。進め方をまとめた解説書としては Esther Derby・Diana Larsen 『Agile Retrospectives: Making Good Teams Great』(Pragmatic Bookshelf・2006 年) がある。

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