機械学習に必要な数学の本ガイド - 「どこまでやるか」で選ぶ 3 レベル

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「数学を全部やり直す」が最大の遠回りである

機械学習を学ぼうとして数式で手が止まり、「高校数学からやり直そう」と決意する。この決意はほとんどの場合、機械学習にたどり着く前に力尽きて終わります。

機械学習で実際に使う数学は、数学全体から見ればごく一部です。微分 (偏微分と連鎖律)、線形代数 (行列とベクトルの演算)、確率・統計 (分布、期待値、最尤推定)。この 3 分野の、しかも計算の意味が分かるレベルで、大半の入門書・実装書は読めるようになります。三角関数の加法定理も複素数平面も、当面は要りません。

だから数学本の選び方は「どの本が名著か」ではなく「自分はどこまで必要か」から決めます。レベルは 3 つに分かれます。

レベル状態ゴール
1数式を見ると読み飛ばす数式アレルギーの解消・記号に慣れる
2機械学習の本の数式で詰まるML で使う 3 分野だけを補強
3理論・論文まで読みたい数理を証明レベルで体系化

レベル 1: 数式アレルギーの解消 - 数学を「解く」前に「慣れる」

数式が出た瞬間にページを飛ばす癖がついている場合、いきなり学び直し本に入るより、プログラミングと数学が地続きだと体感できる本から入る方が続きます。

プログラマ脳を鍛える数学パズル (増井敏克、翔泳社、2015 年) は、数学の教科書ではなくパズル集です。70 問をコードで解いていくうちに、「数学的に考えることとアルゴリズムを書くことは同じ活動だ」という感覚が手に入ります。IT エンジニア本大賞 2016 の技術書部門大賞を受賞しており、エンジニアコミュニティで支持された実績のある入り口です。

このレベルで重要なのは、「数学 = 受験勉強の記憶」を「数学 = コードで確かめられる道具」に上書きすることです。機械学習からいったん離れて見えても、ここで止まらなくなることが後のすべてを速くします。

レベル 2: 機械学習で使う数学だけを最短で - 大半の人のゴール

実装や入門書で数式に詰まった人が必要とするのは、このレベルです。

最短コースでわかる ディープラーニングの数学 (赤石雅典、日経 BP、2019 年) は、書名のとおり「ディープラーニングの理解に必要な数学だけ」を、微分 → 線形代数 → 確率と積み上げ、最後にニューラルネットワークの学習がなぜ動くのかまで一直線に繋げる構成です。数学の学び直しがそのまま機械学習の理解に着地するので、「数学をやったのに ML に繋がらない」という徒労感がありません。

人工知能プログラミングのための数学がわかる本 (石川聡彦、KADOKAWA、2018 年) も同じ層の本で、こちらは Python コードとの対応を取りながら進みます。数式を読んで手を動かして確かめたい人はこちらが合います。

このレベルの本を 1 冊仕上げれば、ゼロから作る Deep Learning のような実装型の入門書の数式は読めるようになります。逆に言えば、実装書を読む前に数学本を 2 冊も 3 冊も積む必要はありません。1 冊やって実装に進み、詰まったら戻る。この往復が最も効率的です。

レベル 3: 数理を体系的に - 理論・論文へ進む人だけ

研究寄りに進む人、理論書や論文の証明を追いたい人向けの層です。

統計的機械学習の数理 100 問 with Python (鈴木讓、共立出版、2020 年) は、統計的機械学習の理論を 100 問の問題演習と Python 実装で固めていく本です。読む本ではなく解く本で、負荷は高いですが、「分かったつもり」が残らないのがこの形式の強みです。

また、数式の比重が高い実装書として ゼロから作る Deep Learning ❺ 生成モデル編 (2024 年) があります。正規分布から拡散モデルまでを数式と実装の両輪で進む構成で、レベル 2 を終えた人が「数式で理解を組み立てる」訓練をするのに適しています。

注意点として、レベル 3 は全員のゴールではありません。実務で機械学習を使うだけなら、レベル 2 + 実装経験で十分に戦えます。「なんとなく不安だから」でこの層の本を買うと、高確率で積読になります。

学び直しルートのモデルケース

数式を見ると閉じる人:   レベル 1 (パズル) ─▶ レベル 2 (最短コース) ─▶ 実装書へ
数式で時々詰まる人:     レベル 2 を 1 冊 ─▶ 実装書と往復
理論・論文まで行く人:   レベル 2 ─▶ 実装書 ─▶ レベル 3 (100 問・生成モデル編)

どのルートでも共通する原則は、数学だけを長期間やらないことです。数学の学習が機械学習の進捗に変わるのはレベル 2 までで、そこから先は「必要になったら戻る」で回します。

よくある質問

Q. 高校数学の教科書や参考書からやり直すべき?

おすすめしません。受験用の教材は機械学習に不要な単元を大量に含み、網羅を目指すと途中で止まります。「機械学習のための数学」と銘打った本は、その取捨選択を著者が済ませてくれていることに価値があります。

Q. 統計と微分・線形代数、どれから?

読みたい機械学習の本に合わせます。ディープラーニング系なら微分と線形代数が先、データ分析・統計モデリング系なら確率・統計が先です。

Q. 数学なしで機械学習はできる?

ライブラリを動かすだけならできます。ただし、結果の解釈やモデルの不調の切り分けはレベル 2 の数学があるかどうかで精度が変わります。詳しくは 機械学習・ディープラーニング本ガイド の学習ルートを参照してください。

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まとめ

機械学習のための数学は「全部やり直す」のではなく、3 レベルのうち自分に必要な段までを最短で登るのが正解です。大半の人のゴールはレベル 2 で、1 冊仕上げたら実装に進み、詰まったら戻る往復運転が最も効率的です。数学本を探すときは、目次が「ML への着地」まで繋がっているかを確認して選んでください。

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