暗号と量子コンピュータ

アンゴウトリョウシコンピュータ

耐量子計算機暗号入門

暗号と量子コンピュータの表紙
セキュリティ
著者:
高木 剛(タカギ ツヨシ)
出版社:
オーム社
出版日:
2019年08月25日頃
ISBN:
9784274224102
在庫:
在庫あり
5(2 件 / 楽天ブックス)
中級者向け
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書籍紹介

来る量子コンピュータ時代の暗号を徹底解説!
暗号技術は、われわれの生活のさまざまな場面で利用されており、情報化社会の安全基盤として重要性を増しています。たとえば、暗号技術がなければネットショッピングも安心してできませんし、ブロックチェーンを用いた仮想通貨も生まれることはありませんでした。

ですが、現在これらのサービスに用いられている暗号技術は従来型のコンピュータによる計算を前提として開発されています。そのため、近年注目されている量子コンピュータによる異なったアルゴリズムで計算を行うと、現在の暗号は高速に解かれてしまうのではないか、という懸念があります。具体的には、素因数分解を前提とした RSA 暗号などは危殆化する状況にあります。

本書は、量子コンピュータが暗号技術に与える影響について多角的な切り口から考察し、読者に、来る量子コンピュータ時代における暗号技術の基礎知識を提供します。読者は、量子コンピュータが与える情報化社会へのインパクトを知るとともに、自身のかかわる情報セキュリティにおいて、今後知っておくべき、対策する必要がある必須の情報を得ることができます。

情報セキュリティに携わる技術者・エキスパートのみならず、暗号や量子コンピュータに興味をもつ一般の方にも向けて、やさしくていねいに解説しています。

技書の森解説

量子コンピューターが大きな規模で動くようになったとき、RSA 暗号をはじめとする公開鍵暗号に何が起こり、どのような暗号へ移っていけばよいのかを、暗号の基礎から順に説明した本です。『暗号と量子コンピューター』 (高木 剛 著、オーム社、2019 年 8 月刊) は副題が「耐量子計算機暗号入門」で、版元は、情報セキュリティに携わる技術者やエキスパートだけでなく、暗号や量子コンピューターに興味をもつ一般の方にも向けて、やさしくていねいに解説した本と案内しています。著者は、2022 年に東京大学の書籍紹介の企画 UTokyo BiblioPlaza へ、情報理工学系研究科の教授として本書の紹介文を寄せています。

全 9 章の構成、暗号の危殆化から標準化活動まで

第 1 章「社会で利用される暗号技術」は暗号と情報技術の歩み、公開鍵暗号の仕組み、代表的な暗号応用技術を整理し、第 2 章「暗号の危殆 (きたい) 化リスク」はスーパーコンピューターによる暗号解読、素因数分解の世界記録、進化する暗号解読技術を扱います。第 3 章で量子コンピューターの仕組みと発展の歴史、応用例を説明したうえで、第 4 章「量子コンピューターによる暗号解読」が量子コンピューターによる素因数分解とその解読状況、その他の量子アルゴリズムを取り上げます。第 5 章はブロックチェーンなど暗号応用技術への影響、第 6 章「暗号のディレンマ - 設計者と攻撃者の攻防」は暗号の開発サイクル、産学官連携による暗号開発、標準化活動です。第 7 章「耐量子計算機暗号とは」と第 8 章「耐量子計算機暗号の標準化活動」で移行先の暗号を扱い、第 9 章「今後の課題」は暗号方式の寿命や、監視活動と移行手続きで締めくくります。前半で脅威の中身を、中盤で暗号が作られて使われる仕組みを、後半で移行先と移行の進め方を説く並びと読めます。

量子コンピューターが RSA 暗号を脅かす理由

RSA 暗号の安全性は、大きな数の素因数分解が従来のコンピューターでは現実的な時間で解けないことに支えられています。著者の紹介文は、普及している RSA 暗号が 617 桁という巨大な数を使い、スーパーコンピューターでも 30 年以上の計算が必要と見積もられている一方で、量子コンピューター を用いれば大きな桁の素因数分解でさえ高速に計算できることが知られていると説明しています。ショアのアルゴリズムとして知られるこの方法は、楕円曲線暗号の土台である離散対数問題にも及ぶため、鍵の受け渡しや電子署名に使われる公開鍵暗号の多くが同じ前提の上に立っていることになります。本書が第 2 章で古典的な計算による解読の到達点を示してから第 4 章で量子の話に入るのは、従来の計算でどこまで解かれてきたのかと、量子によって何が変わるのかを区別して見せるための順序と読めます。第 5 章が ブロックチェーン を独立して取り上げているのも、電子署名に支えられた仕組みが量子計算の影響を受ける身近な例として置かれていると読めます。

格子暗号と多変数多項式暗号、移行先の暗号の中身

著者の紹介文によると、耐量子計算機暗号は 1970 年代末から 40 年以上にわたって学術界で議論されてきた課題で、2015 年 8 月にアメリカ国家安全保障局 (NSA) が移行に関する声明を出し、2016 年から米国標準技術研究所 (NIST) が標準化活動を始めたことで大きな注目を集めました。本書は代表的な 5 つの数学問題とそれを用いた暗号方式として、格子暗号、符号暗号、多変数多項式暗号、ハッシュ関数署名、同種写像暗号を解説し、そのうち多変数多項式暗号と格子暗号については、背後にある数学問題から暗号を組み立てる具体的な方法を詳しく説明していると紹介されています。目次でも第 7 章に多変数多項式暗号と格子暗号の節が並び、耐量子計算機暗号の特徴比較の節が続きます。データの 暗号化 や鍵の共有に使う方式を入れ替えるには、安全性だけでなく鍵や署名の大きさ、処理の速さを比べる必要があり、比較の節はその観点を整理する場所と読めます。なお本書は標準化の途中で書かれた本で、刊行後の 2024 年 8 月に NIST は格子暗号に基づく鍵カプセル化の標準 FIPS 203 を公表しています。第 8 章の応募暗号と今後の標準化計画の節は、その手前の段階の記録として読むのが正確です。

技術者から一般の読者まで、向く人と向かない目的

版元は、暗号技術、情報セキュリティ、量子コンピューターのそれぞれに携わる技術者や研究者、それらを学ぶ学生と、企業や団体のセキュリティ担当者を読者に挙げています。量子コンピューターの話題を耳にして自社のシステムへの影響を説明できるようになりたい担当者や、暗号の移行がなぜ時間のかかる仕事なのかを全体像からつかみたい人に合う構成です。一方、目次には特定の製品やライブラリでの実装手順を扱う項目は無く、移行作業の手順書を求める用途には向きません。量子アルゴリズムを回路の水準で学びたい人も、量子計算を主題にした教科書を併用するほうが目的に合います。

暗号がどのような前提で安全とされ、量子コンピューターがその前提のどこを崩し、次の暗号がどのような数学問題に拠って立つのかを、一本の筋で理解できることが本書の効き目です。第 9 章の暗号方式の寿命や監視活動と移行手続きまで読み通せば、組織で耐量子計算機暗号への移行を議論するときに、論点を自分の言葉で整理するための土台が得られます。

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