AI の雑談力
エーアイノザツダンリョク
- 著者:
- 東中 竜一郎(ヒガシナカ リュウイチロウ)
- 注目:
- 総合 1143 位
- 出版社:
- KADOKAWA
- 出版日:
- 2021年02月10日頃
- ISBN:
- 9784040823065
- シリーズ:
- 角川新書
- 在庫:
- 在庫あり
なぜ注目されているか
書籍紹介
私たちはすでに人工知能と雑談している。タスクをこなすだけでなく、AI に個性を宿らせ、人間の感情を理解できるようにしたメカニズムとは。マツコロイド雑談機能、プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」の研究者が最前線を明かす。
序章 雑談 AI の登場
なぜ AI は雑談を始めたのか
人間が雑談する理由
案内システムに「あそぼうよ」
タスク AI と雑談 AI
自己開示で信頼が高まる
雑談は情報の宝庫
企業が研究に熱心な理由
対話システムは人工知能の究極のゴール
知能を測定するチューリングテストとは
AI との雑談が当たり前になる
第一章 雑談を可能にする仕組み
雑談 AI の構成
心の機微を扱う知見
手書きルールのテクニック
メンテナンスの限界
抽出ベースシステムの動作原理
ディープラーニングによる発話生成
プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」
ロスト・イン・カンバセーションとミーナとブレンダーボット
アレクサ・プライズと統合的な手法
NTT 製雑談 AI の構成
第二章 発言の理解と対話相手の理解
機械の理解とは何か
発話意図の理解
質問の理解
話題を捉える
省略を補うことが鍵
感情の理解
共感の大きな効果
言外の情報を読み取る
対話相手を理解する
再び機械の理解とは何か
第三章 自然な発言を生成する試み
テンプレートでの発話
ふさわしい発言を抽出する
発言をイチから作る
キャラ語尾による個性
キャラデータベースによる個性
個性を一貫させる
不適切発言の検出
ファンが育てる「なりきり AI」
マックスむらい AI
なりきり AI のアルゴリズム
マックスむらい vs.マックスむらい AI
『俺妹』あやせ AI
V チューバーのなりきり AI
第四章 対話破綻という困難
マツコロイドとの対話
対話破綻という現象
雑談 AI のエラー類型
対話破綻検出チャレンジ
対話システムライブコンペティション
シチュエーションへの適応
評価の難しさ
マルチモーダル情報を取り込む
状況理解は雑談の基本
なぜ AI との雑談に飽きるのか
終章 社会の一員となる雑談 AI
普及のロードマップ
共通基盤の研究
対話知能学とは
倫理面の課題
文理融合に向けて
少子高齢化社会のサポート
インタラクティブな教育支援
新型コロナウイルスと雑談 AI
作ってわかる人間のすごさ
対話システムと作る社会
技書の森解説
天気を尋ねる、家電を動かすといった目的のある対話ではなく、目的もオチもないおしゃべりを人工知能にさせる研究は、何を目指しているのか。『AI の雑談力』 (東中竜一郎 著、KADOKAWA、2021 年 2 月刊) は、雑談を扱う対話システムの研究者がその仕組みと難しさを一般向けに解説した角川新書です。版元の紹介文が示すとおり、著者はマツコロイド雑談機能やプロジェクト「ロボットは東大に入れるか」に関わった研究者で、版元登録のプロフィールによれば専門は対話システム、NTT の研究所で上席特別研究員を務めた後に名古屋大学大学院情報学研究科教授に就いています。研究の内側から雑談 AI を語れる書き手による一冊です。
序章から終章まで、雑談 AI の仕組みと対話破綻を追う構成
構成は序章、第一章から第四章、終章の順です。序章「雑談 AI の登場」では、案内システムに「あそぼうよ」と話しかける利用者の存在や、自己開示で信頼が高まること、企業が雑談研究に熱心な理由、知能を測定するチューリングテストを手がかりに、なぜ AI に雑談をさせるのかを説きます。第一章は雑談 AI の構成と、手書きルール、抽出ベースシステム、ディープラーニングによる発話生成という手法の系譜を、ミーナやブレンダーボット、アレクサ・プライズ、NTT 製雑談 AI の構成を例に追います。第二章は発話意図や質問の理解、話題の把握、省略の補完、感情の理解と共感、言外の情報といった「機械の理解とは何か」を掘り下げ、第三章はテンプレート、抽出、イチから作る生成という発言の作り方に加え、キャラ語尾やキャラデータベースで個性を一貫させる技術、不適切発言の検出、ファンが育てる「なりきり AI」の事例を扱います。第四章は対話破綻という現象とそのエラー類型、対話破綻検出チャレンジ、評価の難しさへ進み、終章では普及のロードマップ、倫理面の課題、少子高齢化社会のサポートや教育支援まで、社会の中での雑談 AI を展望します。
雑談が「役に立つ対話」より難しい理由と、手書きルールから生成への系譜
タスク指向の対話システムは、天気を答える、予約を取るといった目的が決まっているため、聞き取るべき情報と正解の応答を定義でき、達成率で評価できます。雑談にはその正解がありません。「今日は疲れた」という一言に対して、共感する、理由を尋ねる、話題を変える、いずれも成立し得るため、何を良い応答とするかを決めること自体が研究課題になります。技術の系譜は、想定した発話パターンごとに応答を書き込む手書きルール、大量の対話データから状況に合う既存の発話を選び出す抽出ベース、そして ディープラーニング で文をその場で生成する発話生成へと進みました。生成型は柔軟な一方で、前後で矛盾する発言や不適切な発言を出しやすく、個性を一貫させることも課題です。自然言語処理 の中でも雑談は、発話意図、省略の補完、感情、言外の情報と、複数の理解を同時に要求するため難所とされており、本書の第二章と第三章はまさにこの難所を扱っています。
対話破綻の検出と評価、2021 年 2 月時点の研究記録として読む
第四章の主題である対話破綻は、会話がかみ合わなくなり続けられなくなる現象です。破綻を機械的に見つけられれば応答を修正できるため、本書が取り上げる対話破綻検出チャレンジや対話システムライブコンペティションのように、研究コミュニティは検出と評価の共通の土台を作ってきました。評価が難しいのは、雑談に唯一の正解がなく、人が判定しても評価者ごとにぶれるからで、さらに表情や状況といったマルチモーダル情報をどう取り込むか、なぜ AI との雑談に人は飽きるのかという問いが続きます。本書は 2021 年 2 月刊行時点の研究状況をまとめたもので、取り上げる生成系の事例は 2020 年に発表されたミーナやブレンダーボットまでです。その後の対話 AI を評価する際にも、ここで整理された破綻の類型と評価の困難は判断の物差しとして有効です。
読むのに向いているのは、チャットボットや音声アシスタントの企画 / 導入に関わっていて「なぜかみ合わないのか」を設計上の言葉で説明したい人、対話システム研究の全体像を新書で先につかみたい学生や技術者、そして AI と話していて感じる違和感の正体を知りたい一般読者です。読了後には、雑談機能への要望を「理解の問題か、生成の問題か、個性の一貫か、破綻の検出か」と切り分けて語れるようになります。一方で、対話システムを自分で実装する手順を求める人には新書では物足りず、版元プロフィールに挙がる著者の別著『Python でつくる対話システム』のような実装書と組み合わせるのが順当です。周辺分野の学び方は 機械学習 / ディープラーニング本ガイド にまとめています。雑談という捉えどころのない難問に、研究者がどんな設計と評価で向き合ってきたかを一冊で見渡したい人にとって、本書は新書の価格で得られる見取り図として十分に元が取れます。
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