炎上社会を考える

エンジョウシャカイヲカンガエル

自粛警察からキャンセルカルチャーまで

炎上社会を考えるの表紙
その他
著者:
伊藤 昌亮(イトウマサアキ)
出版社:
中央公論新社
出版日:
2022年01月07日頃
ISBN:
9784121507525
シリーズ:
中公新書ラクレ 752
在庫:
在庫あり
4(5 件 / 楽天ブックス)
中級者向け
社会分析SNS炎上新自由主義倫理ハッシュタグアクティヴィズム差別誹謗中傷キャンセルカルチャー共感市場主義

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書籍紹介

インターネットや SNS を中心に沸き起こる、尽きることのない分断・衝突・ぶつかり合いーー。「炎上」という現象をかくも夥しく呼び起こしてしまう今日の社会、すなわち「炎上社会」は、どんな対立構造を持ち、いかなる紛争状況を抱えているのか。また、その背景にはどんな社会構造があり、時代状況があるのか。本書の意図は、炎上社会の成り立ちを分析し、炎上という現象の社会的な意味と文脈を明らかにすることである。

【目次】

第 1 章 自粛警察と新自由主義

第 2 章 SNS の倫理と新自由主義の精神

第 3 章 ハッシュタグアクティヴィズムの光と影

第 4 章 差別と反差別と反・反差別

第 5 章 誹謗中傷と共感市場主義

第 6 章 キャンセルカルチャーの論理と背理

技書の森解説

『炎上社会を考える』 (伊藤昌亮 著、中央公論新社、中公新書ラクレ 752、2022 年 1 月刊) は、IT の技術書ではなく、メディア論を専門とする研究者が、インターネットや SNS を中心に絶えず起こる分断と衝突を社会の構造から読み解く社会評論の新書です。副題は「自粛警察からキャンセルカルチャーまで」です。版元の紹介文によれば、炎上という現象をこれほど多く呼び起こしてしまう今日の社会を「炎上社会」と呼び、それがどんな対立構造を持ち、いかなる紛争状況を抱え、背景にどんな社会構造と時代状況があるのかを分析して、炎上の社会的な意味と文脈を明らかにすることが本書の意図です。著者の伊藤昌亮氏は 1961 年生まれ、東京大学大学院学際情報学府博士課程を修了し、日本 IBM、ソフトバンク、愛知淑徳大学現代社会学部准教授などを経て 2015 年から成蹊大学文学部教授を務める研究者 (刊行時の版元プロフィール) で、著書に『デモのメディア論』 (筑摩選書) や『ネット右派の歴史社会学』 (青弓社) があります。

全 6 章の構成、自粛警察からキャンセルカルチャーまでの対立を並べる

構成は全 6 章です。第 1 章「自粛警察と新自由主義」、第 2 章「SNS の倫理と新自由主義の精神」、第 3 章「ハッシュタグアクティヴィズムの光と影」、第 4 章「差別と反差別と反・反差別」、第 5 章「誹謗中傷と共感市場主義」、第 6 章「キャンセルカルチャーの論理と背理」という並びで、感染症流行下の自粛警察に始まり、ハッシュタグを使った社会運動、差別をめぐる応酬、誹謗中傷、キャンセルカルチャーへと、2020 年代初頭に日本のインターネット上で顕在化した衝突の型を順にたどります。第 1 章、第 2 章、第 5 章の章題が現象と概念を対にしているように、個々の事件の当事者を裁く時事解説ではなく、版元の紹介文が述べるとおり、衝突を生む対立構造と社会背景を析出することに主眼が置かれた章立てです。

SNS がなぜ衝突を増幅するのか、技術側から見た炎上の構造

炎上を IT の側から見ると、それは個人の倫理の問題である以前に、情報が流れる仕組みの問題でもあります。SNS では一つの投稿が共有機能によって発信者の想定しない層まで短時間で届き、投稿が置かれていた文脈は届く先で剥がれ落ちます。タイムラインの並び順を決める仕組みは反応の多い投稿を優先しがちで、怒りや嘲笑を誘う内容ほど可視性が高まる傾向を持ちます。ハッシュタグは賛同者の動員コストを大きく下げる一方、同じ仕組みで対抗する側の動員も容易にし、応酬を長期化させます。匿名性と非同期のやり取りは、対面なら働く抑制を弱めます。こうした設計上の性質が、本書が扱う自粛警察やハッシュタグアクティヴィズム、誹謗中傷の舞台装置になっています。ただし本書の力点は仕組みそのものではなく、その上で人々がどのような正義や倫理を掲げてぶつかり合うのかという社会の側にあり、目次にアルゴリズムやプラットフォームの設計を扱う章はありません。技術で炎上を抑える議論と、社会の対立構造を理解する議論は補い合う関係にあり、本書は後者を担う一冊です。

メディア論の研究者による社会評論という性格と、向かない読者

前提知識は特定の技術ではなく、SNS 上の衝突を見聞きしてきた経験と、新自由主義やキャンセルカルチャーといった社会科学 / 時事の語彙にある程度なじんでいることです。新書判で分量は手頃ですが、版元の紹介文と章題から見て、炎上の当事者や事例を紹介する読み物ではなく、新自由主義や共感市場主義といった概念を軸にした分析なので、平易な読み物を求める人には硬く感じられる可能性があります。企業の SNS 運用で炎上を防ぐ手順、発生後の広報対応、投稿削除や法的措置の進め方といった実務的な対処法を求める人には向きません。そうした手引きは目次に含まれず、本書が答えるのは対処の方法ではなく、なぜこの社会がこれほど炎上を生むのかという問いです。

プラットフォーム設計やコミュニティ運営に携わる IT 関係者が元を取れる本

元が取れるのは、SNS やコミュニティサービスの企画 / 設計 / モデレーションに関わり、日々目にする衝突を個別対応の積み重ねではなく構造として捉え直したい人、企業の広報や SNS 担当として炎上のニュースを追いながら、その背後にある社会の変化を言葉にしたい人、そしてエンジニアとして自分の作るサービスが社会にどんな対立を持ち込み得るのかを考えたい人です。刊行から 2 年半あまり後の 2024 年 9 月にも日本経済新聞朝刊で書評が掲載されており、時事の消費で終わらない読まれ方をしている本です。技術書の合間に、自分たちが作り運用するインターネットの上で何が起きているのかを社会の側から見直したいとき、著者の分析は考えるための足場になります。

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