情報セキュリティ基礎講義の表紙

情報セキュリティ基礎講義(ジョウホウ セキュリティ キソ コウギ)

セキュリティ
著者:
松浦幹太(マツウラ,カンタ)
出版社:
コロナ社
出版日:
2019年03月
ISBN:
9784339019346
シリーズ:
電子通信情報系コアテキストシリーズ
在庫:
在庫あり
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セキュリティ

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技書の森解説

セキュリティ の知識を断片的な事例やツール操作からではなく、原理から積み上げたい人のための大学教科書が『情報セキュリティ基礎講義』です。著者は東京大学教授の松浦幹太氏。東京大学工学部の電気系学科 4 年生向けに 2009 年から続けてきた講義「情報セキュリティ」をもとに、コロナ社の電子通信情報系コアテキストシリーズの 1 冊として 2019 年 3 月に刊行されました。 A5 判 224 ページというコンパクトな分量ながら、守秘性・完全性・可用性という基本要素から 暗号、ネットワーク、コンピュータセキュリティ、さらに匿名通信やブロックチェーンといった応用まで、分野の骨格を一望できる構成です。

全 5 章の構成: 暗号から社会との接点まで

全 5 章構成で、第 1 章は基本要素・管理サイクル・三原則・ベストプラクティスに加えて、計算量的安全性と情報理論的安全性という安全性評価の物差しを最初に導入します。第 2 章の暗号では DES と差分攻撃、暗号学的ハッシュ関数、教科書的 RSA 暗号から KEM-DEM や電子署名の安全性強化までを扱い、第 3 章はファイアウォール、仮想専用線、TLS と Web セキュリティ、第 4 章はアクセス制御、パスワード認証・生体認証・多要素認証といった個人認証、そしてマルウェアへと進みます。締めくくりの第 5 章ではオニオンルーティングによる匿名通信、ブロックチェーンと仮想通貨、行動と経済学などセキュリティと社会の接点を取り上げます。まえがきによれば、各論で暗号を学ぶよりも早く序論段階で暗号分野の概念に触れさせる順序は、講義の試行錯誤から効果を確かめて残した設計です。

安全性を判定する物差しという中核価値

この本の中核的な価値は、「安全と言えるかどうかをどう判定するか」という判断の物差しを先に与える点にあります。実務で暗号方式やセキュリティ製品を選ぶとき、根拠になるのは個別ツールの操作経験ではなく、計算量的安全性 (解読に非現実的な計算時間を要すること) と情報理論的安全性 (計算能力が無限でも破れないこと) の区別や、教科書的 RSA がそのままでは使えず安全性強化を要する理由、といった原理の理解です。この土台があると、ファイアウォールのパケットフィルタリングの限界も、多要素認証が何を補っているのかも、同じ枠組みで説明できるようになります。技術の入れ替わりが速い分野ほど、こうした判断軸は陳腐化しにくい資産です。

想定読者と必要な前提知識

想定読者は、まえがきの言葉を借りれば「 ICT を大学教育レベルで学ぶが情報セキュリティに携わるとは限らない幅広い人々」です。ただし前提として、大学教養課程レベルの確率統計と微積分、エントロピーなど情報理論の初歩、インターネットプロトコルの基礎程度の素養は求められます。また最初から通読することを前提に書かれているため、辞書のように拾い読みする使い方には向きません。情報系の学部生はもちろん、実務経験はあるものの理論的な裏付けを整理し直したいエンジニアが、資格試験 の範囲を超えて原理から学び直す教材としても機能します。

向かない読者と代替書

一方、ペネトレーションテストの実技や特定ツールの操作手順を学びたい人、数式を避けて読みたい人には合いません。著者自身もまえがきで、断片的にも読みやすい一般向けの解説としては自著『サイバーリスクの脅威に備える』 (化学同人、 2015 年) を挙げており、読み物を求めるならそちらが近道です。暗号だけを平易に学ぶなら結城浩『暗号技術入門』という選択肢もありますが、暗号にとどまらずネットワーク・アクセス制御・社会制度まで含めた全体像を大学講義の水準で一冊に収めた教科書は貴重です。数式込みで基礎を固めておけば、この先どの技術やインシデントに出会っても自力で評価する足場になります。その足場づくりへの投資として選ぶ価値のある一冊です。

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