耐量子計算機暗号

タイリョウシケイサンキアンゴウ

耐量子計算機暗号の表紙
セキュリティ
著者:
縫田光司(ヌイダ コウジ)
出版社:
森北出版
出版日:
2020年08月06日頃
ISBN:
9784627872110
在庫:
在庫あり
0
中級者向け
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言及数
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書籍紹介

【第 30 回 (2021 年度) 大川出版賞受賞!】
量子計算機 (量子コンピュータ) の研究開発が急速に進む昨今、従来の計算機の能力を前提に設計されている「暗号技術」に見直しが求められている。大規模量子計算機の実現後も安全な公開鍵暗号は、どうすればつくれるのか。この課題に挑むべく誕生した「耐量子計算機暗号」 (Post-Quantum Cryptography) は、近年成長が著しい一大研究分野となっている。

本書は、耐量子計算機暗号を包括的かつ技術的に解説した、初の専門書である。暗号理論全般および量子計算への入門的解説から紐解き、安全性評価の具体例も紹介しながら、多彩な耐量子計算機暗号の試みを取り上げる。
第 1 章 暗号分野への導入

第 2 章 耐量子計算機暗号

第 3 章 格子暗号

第 4 章 同種写像暗号

第 5 章 量子計算と暗号の安全性

技書の森解説

量子コンピューターが実現した後も安全な公開鍵暗号をどう作るかという課題に、数理の側から向き合う専門書です。『耐量子計算機暗号』は縫田 光司 著、森北出版が 2020 年 8 月に刊行した書籍で、版元の紹介文は本書を、耐量子計算機暗号 (Post-Quantum Cryptography) を包括的かつ技術的に解説した初の専門書と位置づけています。紹介文によると、本書は第 30 回 (2021 年度) 大川出版賞を受賞しています。刊行時の著者紹介では、著者は博士 (数理科学) の学位を持つ東京大学准教授です。

全 5 章の構成、暗号への導入から格子暗号と同種写像暗号へ

目次は第 1 章「暗号分野への導入」、第 2 章「耐量子計算機暗号」、第 3 章「格子暗号」、第 4 章「同種写像暗号」、第 5 章「量子計算と暗号の安全性」の全 5 章です。紹介文によれば、暗号理論全般と量子計算への入門的な解説から説き起こし、安全性評価の具体例も紹介しながら、多彩な耐量子計算機暗号の試みを取り上げています。方式名を掲げた章は格子暗号と同種写像暗号の 2 つで、第 2 章で分野の全体像を示したうえでこの 2 系統を掘り下げ、最後の第 5 章で量子計算と安全性の関係に戻る配置と読めます。巻末には参考文献が付いています。

公開鍵暗号に作り直しが求められる理由

RSA 暗号や楕円曲線暗号は、大きな数の素因数分解や離散対数問題が従来の計算機では現実的な時間で解けないことを安全性の根拠にしています。ところが十分な規模の 量子計算機 があれば、Shor のアルゴリズムによってこれらの問題は効率的に解けることが知られており、鍵を長くするだけでは守れません。これに対して共通鍵暗号への影響は比較的限られ、鍵長を大きくすることで対処できると一般に考えられています。耐量子計算機暗号は、量子計算機を使っても効率的には解けないと考えられている別の数学的問題、たとえば格子の中で短いベクトルや与えられた点に近い格子点を探す問題や、楕円曲線の間の同種写像を見つける問題に安全性の根拠を置き直す試みです。こうした方式は、TLS のような通信の鍵交換や電子署名といった 暗号技術 の基盤を入れ替える候補になるため、どの問題がなぜ難しいと言えるのかを理解しておく価値は、研究者に限らず大きいと言えます。

2020 年 8 月刊という時点と、刊行後の動き

本書の刊行は、米国の NIST による標準化の選定が進んでいた途中にあたります。NIST は 2022 年 7 月 5 日に第 3 ラウンドの完了を発表し、標準化する 4 方式として CRYSTALS-Kyber、CRYSTALS-Dilithium、FALCON、SPHINCS+ を選びました。NIST は SPHINCS+ を加えた理由を、署名を格子の安全性だけに頼らないためと説明しており、選ばれた方式の中心が格子にあることが分かります。選定結果や確定した標準の仕様を本書で確かめることはできませんが、格子暗号に 1 章を割いた構成は、その後の標準化の流れを理解する土台として読めます。同種写像暗号の分野では、刊行後の 2022 年 7 月に Wouter Castryck と Thomas Decru による SIDH という方式への効率的な鍵回復攻撃の論文が Cryptology ePrint Archive に投稿されています。第 4 章を読む際は、刊行後の研究の進展を論文で突き合わせながら読むのが安全です。

目次に実装や移行の手順を扱う章は見当たらないため、暗号ライブラリの使い方や既存システムの移行計画をすぐに知りたい場合は、別の資料が向いています。一方で、耐量子計算機暗号がどのような数学的問題に支えられ、その安全性がどう評価されるのかを日本語で一から筋道立てて学びたい技術者や、情報セキュリティや数理を専攻する学生にとって、暗号と量子計算の入門から始めて主要な 2 系統へ進める本書は、標準化の議論を自分で読み解くための確かな足場になります。

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