アーカイブの思想

アーカイブノシソウ

言葉を知に変える仕組み

アーカイブの思想の表紙
ネットワーク
著者:
根本彰(ネモトアキラ)
出版社:
みすず書房
出版日:
2021年01月20日頃
ISBN:
9784622089704
在庫:
在庫あり
4(6 件 / 楽天ブックス)
中級者向け
アーカイブ思想史文化史教育史比較文化デジタルアーカイブ情報社会知的資源管理書物文化ネットワーク

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書籍紹介

「もし私が彼方まで見通せていたとしたら、それは巨人たちの肩の上に立っていたからだ」--アイザック・ニュートン

日本の社会では、いまなおアーカイブは必須の社会基盤とみなされていないのではないか。こう問いかける著者は、その根底にある要因を、古代ギリシアより言葉を記録する〈アーカイブの思想〉が息づく西洋の思想史・文化史・教育史のなかに探ってゆく。そして翻って、日本独自のアーカイブのかたち (写本、類聚等の出版物や江戸期の文庫など) を再考し、両者を比較することで浮彫りになる課題を問い直す。
デジタルネットワーク社会となった今日、私たちは世界中の知のアーカイブにつながり、それを活用することが可能となった。そこに開かれているのは、情報の荒野なのか、知の沃野なのかーーそれは、そこに立つ者のスキルと意欲しだいであると著者は述べ、独学と在野の知へ向かう人たちにエールを送る。

個人を助け、社会を支える基盤としてあるアーカイブ像を照らす、碩学による教育論であり、文化論である。

技書の森解説

日本の社会では、アーカイブがまだ必須の社会基盤とみなされていないのではないか。『アーカイブの思想』 (根本彰 著、みすず書房、2021 年 1 月 18 日発行) は、著者のこの問いを出発点に、言葉を記録して知に変える仕組みを西洋と日本の歴史からたどる本です。副題は「言葉を知に変える仕組み」です。版元は、古代ギリシアから続く西洋の思想史、文化史、教育史を探り、翻って写本や類聚などの出版物、江戸期の文庫といった日本独自のアーカイブのかたちを再考し、両者の比較で浮かぶ課題を問い直す本と紹介し、全体を「碩学による教育論であり、文化論である」とまとめています。著者は刊行時の略歴で、博士 (図書館 / 情報学) を持ち、図書館情報学と教育学を担当してきた東京大学名誉教授と紹介されています。

ロゴスからネット社会まで、全 10 講の流れ

本文は講義の形をとる全 10 講にエピローグが続きます。第 1 講「方法的前提」でアーカイブとアーカイブズの用語を整理したあと、第 2 講「西洋思想の言語論的系譜」、第 3 講「書き言葉と書物のテクノロジー」、第 4 講「図書館と人文主義的伝統」では、プラトンやアリストテレス、グーテンベルクの活版印刷術、アレクサンドリア図書館などを取り上げます。第 5 講から第 7 講は記憶術やレファレンス書、百科全書と啓蒙主義、公共図書館の制度化、国際バカロレアにおける学校図書館までを論じ、知がどのように蓄えられ、学びへ渡されてきたかを追います。第 9 講「日本のアーカイブ思想」は江戸のリテラシーや会読から明治の博覧会、博物館、図書館へと視点を移し、第 10 講「ネット社会のアーカイブ戦略」は 20 世紀のハイパーメディア構想や国立国会図書館と憲政資料室を取り上げます。エピローグは独学と在野の知で結ばれます。

書誌コントロールとメタデータを扱う第 8 講

情報システムに関わる読者にとって手がかりになるのが、第 8 講「書誌コントロールとレファレンスの思想」です。世界書誌の夢、書誌とドキュメンテーション、FRBR モデル、分類法と主題、知的コンテンツのメタデータといった節が並びます。検索の仕組みが役に立つのは、対象を誰がどの粒度でどう記述し、どの分類の体系に置くかという取り決めが先にあるからです。同じ著作の翻訳や版違いを別物として扱うのか、一つの著作の異なる現れとしてまとめるのかで、利用者が目当ての資料にたどり着けるかどうかが変わります。これは、データベースを設計するときに、何を一つの実体として切り出し、何をその属性や関連として持たせるかを決める作業とよく似た問いです。目次を見ると、書誌と分類の話題は第 5 講の節にも現れ、第 8 講へと続いており、知の整理を歴史の流れの中で扱う構成になっています。版元の紹介ページは、巨人の肩の上に立つというニュートンの言葉を掲げて始まり、先人の残した記録をたどって次に読むものを選ぶという本書の姿勢を示しています。

独学で知の基盤を考えたい人に向く理由と、向かない目的

版元の紹介文によれば、著者は、世界中の知のアーカイブにつながれるデジタルネットワークの社会で、そこが情報の荒野になるか知の沃野になるかは立つ者のスキルと意欲しだいだと述べ、独学と在野の知へ向かう人たちにエールを送っています。図書館や博物館の仕事に関わる人だけでなく、データや文書を残す仕組みを作る立場のエンジニアが、記録を残すことの意味を歴史の厚みの中で考え直すための一冊になります。一方で、デジタルアーカイブのシステム構築の手順や、特定のメタデータ形式の書き方を学ぶ実務書ではありません。手を動かす技術はほかの本に任せ、何をどう残せば後の人の知になるのかという問いを自分の仕事に持ち帰りたい人にとって、本書は長く手元に置いて読み返せる教養書です。

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