AI 原論 神の支配と人間の自由(エーアイゲンロンAI カミノシハイトニンゲンノジユウ)
ネットワーク- 著者:
- 西垣 通(ニシガキ トオル)
- 出版社:
- 講談社
- 出版日:
- 2018年04月10日頃
- ISBN:
- 9784062586757
- シリーズ:
- 講談社選書メチエ
- 在庫:
- 在庫あり
なぜ注目されているか
書籍紹介
第三次ブームを迎えた AI の進化は、われわれの生活を避けようもなく変えつつある。自動運転、投資相談、医療診断など、以前では想像もできなかった領域に AI が入り込んでいく中で、 30 年以内に AI の知性が人間を超越する、という「シンギュラリティ (技術特異点) 」仮説を唱える専門家さえいる。われわれを待っているのは「薔薇色の未来」なのか? 半世紀にわたって AI を間近で見てきた第一人者が投げかける大切な問い。
ここのところ「スマートスピーカー」の宣伝をよく目にします。名だたる企業が競うように発売し、これを導入すると、どれほど生活が便利になるかを伝えています。スマートスピーカーは「 AI スピーカー」とも呼ばれるように、 AI (人工知能) が搭載されています。囲碁や将棋で AI がプロに勝った、というニュースを聞くようになってから、もうずいぶん経ちますが、今や自動運転、投資相談、医療診断など、以前では想像もできなかった領域に AI は進出しつつあります。そして、 30 年以内に AI の知性が人間を超越する、という「シンギュラリティ (技術特異点) 」仮説を唱える専門家さえ出てきています。
そこに待っているのは「薔薇色の未来」でしょうか? 便利さ、というものに目を奪われて、しっかり考えることなく、さまざまな判断をコンピュータに委ねてしまうことになって、だいじょうぶなのでしょうか?
本書は、半世紀近くにわたって AI の栄枯盛衰を間近で見てきた第一人者からの提案の書です。──先に進む前に、いったん立ち止まって、きちんと考えてみませんか?
現在の AI ブームとも呼ぶべき状況は、 1950 〜 60 年代の第一次ブーム、 1980 年代の第二次ブームに続く三度目のものになります。本書は、それらの歴史を振り返り、それぞれの時期に何が可能になったのか、何が不可能であることが分かったのか、そしてそれは今日に至って解決されたのか、といった点を分かりやすく整理します。
その上で、今、世界中で注目されるフランスの哲学者カンタン・メイヤスーの議論を手がかりにして、 AI が目指しているのはどんな世界なのかを探っていきます。そこで明らかになるもの、それは「絶対知をもつ神に人間が近づいていく壮大なストーリー」にほかなりません。もしもそのストーリーが現実のものになったとしたら、「自由意思」や「責任」といったものはどうなるのでしょう?
AI とよく付き合うために、本書は大切な問いを投げかけます。
【本書の内容】
まえがき
第一章 機械に心はあるのか
第二章 汎用 AI ネットワーク
第三章 思弁的実在論
第四章 生命と AI がつくる未来
第五章 AI と一神教
技書の森解説
AI が人間の知性を超えるというシンギュラリティ仮説を、技術予測としてではなく、西洋思想の系譜の問題として読み解く本です。『 AI 原論 神の支配と人間の自由』 (西垣通 著、講談社選書メチエ、 2018 年 4 月刊) は、第三次ブームと呼ばれた 2010 年代後半の AI 熱の中で、生命と機械の違い、フランスの哲学者カンタン・メイヤスーの思弁的実在論、そして一神教の世界観という三つの手がかりから、 AI が目指している世界とは何かを問い直します。著者の西垣通は 1948 年生まれ、東京大学工学部計数工学科を卒業後に日立製作所とスタンフォード大学でコンピューター・システムの研究開発に携わり、明治大学教授と東京大学教授を歴任した工学博士で、専門は情報学とメディア論、著書に『基礎情報学』 (NTT 出版) などがあります。半世紀近く AI の栄枯盛衰を間近で見てきた技術者出身の論者が書いた思想書という点が、本書の性格を決めています。
全 6 章の構成、機械の心からシンギュラリティ、一神教まで
構成は全 6 章です。第一章「機械に心はあるのか」で AI ブームの再来、生命と機械の違い、疑似生命としてのロボットを扱い、第二章では脳型コンピューティング、シンギュラリティ仮説、クラウド・コンピューティングを材料に、ネットワークでつながった汎用 AI という構想を検討します。第三章「思弁的実在論」は、思考と存在の相関の外に出られないとする相関主義と、それを批判する実在論の対立、宇宙の安定性の根拠、物質・流動・生命という主題を追う哲学的な章で、第四章はその議論を受けて相関主義への疑問と、自由意思と責任の行方を論じます。第五章は救済・創造・ロゴス、選民による布教と情報伝播という切り口で AI と一神教の関係を掘り下げ、一神教は超克できるかを問い、第六章で全体の論点を総括します。版元の紹介文によれば、メイヤスーの議論を手がかりに見えてくるのは、絶対知をもつ神に人間が近づいていくストーリーであり、それが実現したとき自由意思や責任はどうなるのかが本書の中心的な問いです。
統計的なパターン認識と「意味」の隔たりという技術背景
第三次ブームの実体は、深層学習による統計的なパターン認識の精度向上でした。画像認識や囲碁で人間を上回った成果は、大量のデータから相関を学ぶことで得られたもので、機械が世界の意味を理解したことを示すわけではありません。この「性能は上がるが意味は生じない」という隔たりは、 AI 研究の第一次ブーム (1950 年代から 60 年代) と第二次ブーム (1980 年代) でも形を変えて現れ、本書はそれぞれの時期に何が可能になり、何が不可能と分かったのかを整理した上で議論を進めます。第一章で生命と機械を対比する視点は、著者が『基礎情報学』以来論じてきた、生命は自ら意味を生み出す系であり機械はそうではないという考え方の延長にあります。刊行後に登場した大規模言語モデルは流暢な言語出力を実現しましたが、それが意味の理解なのか高度な統計的模倣なのかという論争は続いており、本書の問いは 2020 年代に読んでもむしろ切実さを増しています。
哲学の予備知識と、技術書を求める人への注意
前提として AI の実装知識は不要で、機械学習の数式やプログラミングは一切登場しない思想書です。一方で、第三章のメイヤスー論は哲学の専門用語が多く、相関主義や実在論という言葉に初めて触れる読者には抽象度の高い部分になります。とはいえ著者は一般読者向けの選書という体裁に合わせて議論を運んでおり、哲学の学習経験が無くても第一章と第二章の AI 史、第四章以降の自由意思と責任の議論は追えます。逆に、ニューラルネットワークの仕組みを知りたい人、 AI の導入手順やツールの選び方を求める人には、本書は答えを用意していません。技術解説と思想的な検討は別の本で補い合うものと考えて選ぶのが適切です。
本書が元を取れるのは、 AI を業務や製品に組み込む立場にあって、何をこの技術に委ね、何を委ねてはならないかを自分の言葉で説明する必要がある人です。経営層や顧客からシンギュラリティ論を持ち出されたとき、技術的な限界だけでなく、その議論がどのような世界観に根ざしているかまで踏み込んで答えられるようになることが、本書の具体的な効き目です。技術そのものは 2018 年時点の状況を前提としていますが、扱っている問いは技術の世代交代で古びない種類のものです。 AI 時代の判断軸を思想の側から固めたい IT エンジニアや企画職にとって、読む価値の高い一冊です。
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