人工知能の経済学

ジンコウチノウジンコウセイメイノケイザイガク

暮らし・働き方・社会はどう変わるのか

人工知能の経済学の表紙
AI / 機械学習
著者:
馬奈木 俊介(マナギ シュンスケ)
出版社:
ミネルヴァ書房
出版日:
2018年10月24日頃
ISBN:
9784623083251
在庫:
在庫あり
0
中級者向け
人工知能経済学社会影響技術革新自動運転労働市場経済分析未来予測社会課題政策提言

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書籍紹介

人工知能 (AI) が話題になっている。一方では技術革新がもたらす新たな生活への期待があり、もう一方では従来の仕事がなくなるという不安もあり、どう捉えるべきか難しい課題である。本書では、人工知能の登場が社会にどのようなインパクトを与えており、今後どうなっていくのか、経済学の知見を用いて検証する。自動車の自動運転など、喫緊の課題にも切り込んだ意欲作。

技書の森解説

『人工知能の経済学 暮らし・働き方・社会はどう変わるのか』 (馬奈木俊介 編、ミネルヴァ書房、2018 年 10 月刊) は、プログラミングや機械学習の技術書ではなく、人工知能 の登場が社会と経済にどのような影響を与え、今後どうなっていくのかを経済学の知見で検証する経済学の専門書です。版元登録の分類は専門書の経済 / 財政 / 統計で、雇用、法規制、自動運転の普及、IT 投資と生産性といった論点を、データと理論モデルで扱います。編者の馬奈木俊介氏は 2018 年 10 月時点で九州大学主幹教授 / 都市研究センター長です。IT 技書の森で取り上げるのは、AI 導入を提案 / 評価する立場の技術者や企画担当者にとって、技術の外側にある「なぜ企業は活用できないのか」「投資は生産性に効くのか」への経済学からの答えが役立つからです。

序章と 4 部 14 章の構成、企業活用から法的課題 / 普及影響 / 技術開発まで

構成は「はじめに」と序章「人工知能は私たちの社会・経済にどのような影響を与えるのか?」に続き、4 部 14 章で展開します。第 I 部「AI の企業での活用とその課題」は、人工知能等が雇用に与える影響と社会政策 (第 1 章)、なぜ多くの企業が AI を経営に活用できないのか (第 2 章)、持続可能なスマートシティ実装 (第 3 章) を扱います。第 II 部「AI に関する法的課題」は AI の法規整をめぐる基本的な考え方、クラウドファンディングを中心とした人工知能ビジネスの資金調達と法規制、損害賠償の観点から考えるドローンと法の 3 章です。第 III 部「AI の普及がもたらす影響」は、誰が自動運転車を購入するのか、自動運転による自動車走行距離の変化、情報技術の利用とマークアップの分析、人工知能社会における失業と格差の経済理論の 4 章、第 IV 部「AI 技術開発の課題」は労働時間が生活満足度に及ぼす影響、日本企業の IT 化は進んだのか、情報化投資と法規制の影響、特許分析による人工知能技術の研究開発戦略の 4 章で、巻末に索引が付きます。

外部性 / サーチ理論 / 支払意思額、経済学が AI を測る道具

本書の各章の章題や節題には、経済学が技術を分析するときの道具がそのまま現れています。「外部性」は、取引の当事者以外に及ぶ利益や損害のことで、AI が引き起こす事故や差別のように、開発者や利用者が費用を負担しない影響をどう法やルールで内部化するかを考える起点になります。「サーチ理論」は、求人と求職が瞬時に結びつかない摩擦をモデル化する労働経済学の枠組みで、AI による自動化が失業や格差にどう波及するかを、単純な「仕事が奪われる/奪われない」の二択ではなく均衡の移動として描けます。「支払意思額」は消費者がその財に払ってよいと考える上限額を調査から推計する手法で、自動運転車が普及するかを技術の完成度ではなく需要側から見積もる根拠になります。「マークアップ」は価格と限界費用の差、つまり企業の値付け力の指標で、情報技術の利用が企業の競争環境をどう変えたかを測る物差しです。こうした道具を知っておくと、AI の社会影響を語る議論の多くが、実は測り方の問題であることが見えてきます。

技術者が AI 導入の稟議と提案に持ち帰れる論点

エンジニアにとって実利があるのは、第 2 章が企業のイノベーション導入を技術要因、人材、経営組織、外的要因に分けて論じている点です。PoC が本番導入に進まない理由を技術の未熟さだけに求めがちな現場に対して、人材と経営組織という変数を同じ枠に置いて考える視点を与えてくれます。第 12 章が日本の労働生産性の低迷と産業別 IT 投資を扉に、企業レベルの IT 投資が生産性を上昇させるかを『企業活動基本調査』を使った研究で検討している点も、社内で IT 投資の効果を問われる立場には直接の材料になります。第 14 章の特許分析は、いつ、どこで、どの技術が開発され、どの出願者がどこで特許を取得しているかを追うもので、技術ロードマップを外部データから読む方法として参考になります。こうした知見は、非エンジニアの上司に技術を伝えるための読書 が扱うような、技術判断を経営の言葉に翻訳する場面で効きます。

2018 年時点の分析という前提と、向かない読者

刊行が 2018 年 10 月のため、扉となる序章の「AI の開発・普及の現状と今後」を含め、分析の対象は深層学習の実用化が進んだ 2010 年代の状況です。2022 年以降に急速に広がった 生成 AI や大規模言語モデルが雇用と法に与える影響は扱っていないため、そこを求める人には別の本が必要です。また、実証分析の章は生産関数の推計やモデルの比較静学など学部上級から大学院水準の経済学の表現を使うので、経済学に触れたことがない読者は序章と第 I 部から入り、関心のある章を選んで読む方が現実的です。機械学習のアルゴリズムや実装を学びたい人にとっては目的が違う本なので、その場合は 機械学習 / ディープラーニング本の選び方 から技術書を選ぶ方が確実です。

AI 導入の企画書に技術以外の根拠が欲しい技術者、政策や法規制の側から AI を見る必要がある企画 / 法務担当者、そして卒論や修論で技術と経済の接点を扱う学生にとって、序章と 14 章の分析は、感想や予測ではなく測定の作法で AI を語るための土台になります。技術の内側だけでは答えが出ない問いに向き合う人に、本書は視野を一段広げる一冊です。

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